中に入ると、スタッフの人達が出迎えてくれた。
すごくオシャレなお店だな。なんで今まで知らなかったのだろう。ちょっと後悔した。

「あー!!楓ちゃんだ!何で?!」

オヒィスから出てきたのは

「ともひろ君・・・」

確かにともひろ君は、谷中涼と同じ仕事仲間。ってことは、この美容室で谷中涼が働いていることは間違いない。

「えー、なにとも知り合いなの?」

池内さんが不思議そうに尋ねる。
お願いだから、合コンで知り合ったなんて言わないで欲しい。
ともひろ君は、私の気持ちを察したのか、
「あー、楓ちゃんは俺の友達の友達ってとこかな。ね、楓ちゃん?」

「は、はい。そうです。本当に偶然で・・」

「そうだったんだ!それは偶然ですね」

ともひろ君が空気読める人でよかった。

「あ、それでね桜庭さん。カットモデルのけんなんですけど」

「あ、はい」

「今日はもう遅いので、桜庭さんには今週の日曜日に美容室に来ていただけますか?」

「日曜日・・ですか?」

今日が火曜日だから、あと5日後ってことか。日曜日なら、仕事もないし大丈夫かも。

「わかりました。日曜日にお伺いしますね」

とりあえず、今日は谷中涼はいないみたいだし、日曜日もいない事を願っておこう。

「では、日曜日に。それと、今回桜庭さんを担当するスタッフを紹介しておきますね」

「池内さんじゃないんですか?」

てっきり、池内さんがやると思ってた。
すると、近くにいたともひろ君と目が合った。

ニヤっ

今、あの人私を見てニヤッとしたんだけど・・・
嫌な予感がする。

「桜庭さんの担当スタッフは谷中涼って人です。今日は残念ながら出勤日ではなかったのでいませんけど」

確かに聴こえた。

谷中涼って。

嘘でしょ。まさかの私の担当スタッフ。
私には悪魔が取り憑いているのだろうか。



「楓ちゃん!」

帰り道、急にともひろ君に呼び止められた。

「涼のことなんだけど、その、あのときはごめんね・・」

「・・・・」

さっきのともひろ君のニヤけ顔を思い出した。
この人本当に申し訳ないと思ってるのかな。

「あいつは、俺が無理やり連れてきたから、不機嫌だったんだよ」

やっぱり。だって全然楽しそうじゃなかったし。

「あの時のことは、別に気にしてませんから」

「そっか、なら良かった」

「けど、担当スタッフっていうのはちょっと・・・」

これは、本音。あいつがいる美容室でカットモデルをやることはいいとして、
嫌だけど、
あいつに髪の毛を切られるってことが・・・

「大丈夫だよ!あいつ結構腕もいいし、若手ながに人気もあるし」

いや、そう言う問題?
こうして私の波乱な人生の幕開けとなった。