あの合コン以来私は、谷中涼の言葉が頭から離れなかった。

「自分のことは棚に上げて・・・」

あいつの言ったことは間違ってないとは思う。けど、初対面の人に失礼極まりないでしょ。私の何がわかるっていうのよ。

「楓ー、昨日はありがとね。その、涼さんに言われたことは気にしなくていいと思うよ」

「うん、大丈夫だよ。全然気にしてないから」

嘘。気にしないわけがない。
正直言うと少しショックだった。男の人にあんな事言われたの初めてだし・・・
理想を高く持って何が悪いのよ。

「じゃあ、私帰るね。」

そう言って仕事場を後にした。

「寒っ・・」

今日は一段と寒いな。駅までの道のりがつらいなぁ。
そんなこと考えていたその時、

「あのー、すみません。ちょっといいですか?」

私の目の前には、見知らぬ男が1人。

「何か?」

「急にすみません。僕は、この近くの美容室で働いている者です」

「はぁ、」

なんでそんな人が私に声をかけるのだろう。

「いま、当店ではカットモデルを探していて、あなたにぜひお願いしたい!」

「カッ、カットモデル?!
何言ってるんですか!私なんが無理ですよ!モデルなんて」

何を言い出すかと思えば、カットモデルって、冗談であって欲しい。

「大丈夫ですよ!モデルって言っても、一回限りですし、カットも無料でできるんですよ?」

確かに前から髪の毛を切りたいとは思ってた。それがタダでやってもらえるんだったら、悪い話ではない気がする。

「わかりました。やります。」

そう言って私たちは、美容室に向った。

「そういえば、名前聞いてもいいですか?」

「桜庭楓です」

「桜庭さんね。俺は池内洋平です。よろしくお願いしますね」

「はい」

数分歩くとオシャレな店が見えてきた。
こんな店、近くにあったんだ。

「Magic merry・・・・」

店の看板そう書いてある。どういう意味なのだろう。

「そう、ここがです。店の名前は、涼が決めたんたけど、たぶんたいして意味はないと思うよ」

「そうですか。涼・・・さんか」

ん、涼?どこかで聞いた事あるような・・・
いや、まさかだよね。そんなこと・・
確かに美容師とはいってたけど、

「あの、涼さんって・・・」

「えっ、桜庭さん涼のこと知ってるんですか?ちなみに谷中涼っていうんだけど」

「・・・・・」

なんで、私引き受けちゃったんだろ。
しかも、よりによって
いま一番会いたくない人がそこにいるなんて・・・

「いえ、すみません。友達にも涼って人がいて、間違えました・・・」

合コンで知り合ったなんて言えるはずもなくて、

「そうですか。では中に入りましょうか」

こうして私は、地獄の門へと足を踏み入れた。