「梨乃さんか。好きなだけここにいていい。でも、記憶が早く戻るといいね」
「・・・はい」
返ってきた父親と3人で食卓を囲む。
懐かしいその感覚だが、昔とは違うそれに梨乃は少し戸惑う。
和気藹々と、その日あったことを話したり、他愛のない話で笑い合ったり。
なんの違和感もなく、ぎこちなさもなくできたあの頃とは違ってしまった今に。
わかってはいても、納得できずにいた。
「嫌いなものはなかったかしら?」
「あ、はい。大丈夫です」
懐かしい母の料理。
大すきだった味付け。
どれもが、自分に心地よく、安心させる。
それでも、そこに自分の居場所はないのだと痛感する。


