「ここ・・・」
梨乃が連れてこられた部屋は、かつて梨乃が使っていた部屋だった。
その部屋は、梨乃がいた時のまま残されていた。
「家には子どもがいないはずなんだけどね、いつの間にこんな部屋作ってたのか二人とも記憶にないの。不思議でしょう?」
「え・・・」
「でも、なんとなく片づけられなくてね。なぜかはわからないんだけど・・・」
梨乃の事を覚えているわけではない。
ここには、梨乃の居場所は残ってはいない。
それでも、ここで生きていた証は残っていた。
それが記憶に残ってはいなくても。
不思議だと、不気味に思われていたとしても。
形として。
ちゃんとここに。
「梨乃さん・・・?」
「ご、ごめんなさい。なんでもないんです」


