「あの、お名前を伺ってもいいかしら?」
「あ、はい。すみません。・・・梨乃です」
「梨乃さん。・・・あの、うちに何か用だったのかしら?」
そう問われ、梨乃は悩んだ。
なんと答えたらいいのだろう。
「あ、あの・・・。私、記憶がなくて、行くところがなくて、ここら辺をうろうろしてて・・・」
「まぁ」
「だから、あの・・・」
「帰るところがないのね」
我ながら、ひどい言い訳だと思った。
それでも母親は疑う様子もなく悲しげに眉を下げた。
「それはかわいそうね。そうだわ、しばらく家にいたらいいわ。私たち夫婦ね、子どもがいなくて。でも、一軒家だから部屋は十分に余っているのよ」


