「高田さん、注文分の洋花の確認急いでね! 坂口さんは店頭に出て! 」
12月に入ると生花店は急激に忙しくなる。イメージとは真逆の重労働な職のため、今年に入って3人退職してしまったウチは、俺を含んで8人で何とか切り盛りしている。
「南原さんは早めに休憩入って、山口さんは水揚げ進めて、マスターは店売り用のアレンジやっちゃって下さい!!」
最後の方は声が力強くなって周りは肩をビクッと反応させた。キッと睨みつけられ、マスターである俺は椅子から立ち上がってハイハイと指示に従う。
冒頭から指示を投げてる彼女は栗山。俺が雇うイチ従業員に過ぎない。が、態度がマスター越えのデカさだ。
まぁ、態度に平行して一番働くのも彼女だから誰も文句は言わない。
長い髪を頭の上でダンゴにして、腕まくりして細い腕を露わにし、力仕事を喜んでやる姿は男顔負けだ。
「マスター!集中してくださいね!」
「ハイハイ」
「もう!隙があればタバコ吸いに逃げようとするんだもの、自分の店のくせに!」
まだ隙さえ見つけられてないのに先を見こされる・・・。嫌味を含んで言った彼女に対して、別に嫌気は差さない。
フッと軽く笑うと、ムッ とした顔が返ってくる。
「何か?」
「いや、よく出来た女だなーと」
「・・・バカにしてますね」
プイッとそっぽ向いて仕事に集中し始めた彼女。
あと数時間後には、その“よく出来た”仮面が剥がれると思うと、また可笑しくてフッと笑みが零れた。