「何話してたの?」
「ん?いや、大したことじゃないよ。」
2人は校舎に向けて歩き始めた。
駐車場から校舎までは少し距離がある。
ここにもまだ人々は大勢いて、校舎のすぐ前まで続いていた。
さすがに校舎には入ってこれないようで、入ってしまえばこっちの勝ちだった。
「まあいいんだけど。それより、美那と喧嘩でもした?
さっきも沙羅を待たずに行っちゃったから。」
その言葉に沙羅は一瞬固まった。
その反応に晴樹は「やっぱり」と呟く。
「今、喧嘩なんかしてる場合じゃ…」
「喧嘩じゃないよ。」
沙羅は晴樹に笑って見せた。
男子の中でも背の高い晴樹を、沙羅は自然に見上げる形になる。
その状況と沙羅の表情に、晴樹は顔を赤くした。
「じゃ、じゃあなんだよ…」
「ちょっとお互いイライラしてるだけだよ。
ほら、初めての曲の『Starlight』が大ヒットしちゃって、次の曲にプレッシャーがかかるから。
次で失敗するわけにはいかないしね。」
「…俺は最後のし上げしか仕事ないんだから、俺のことも頼ってよ?」
晴樹が沙羅の顔を覗き込むと、沙羅はそのままの笑顔で頷いた。
「…でも、美那を手伝ってあげて。私は大丈夫だから。」
「ああああ~~~~~~~!」
それを聞いて晴樹が口を開きかけた時、左の人混みから悲鳴とは違う奇声が上がった。
その場にいた全員が驚いて声の方を見る。
そこは報道陣のいるエリアのようで、大きなカメラが集うその奥で誰かがピョンピョンと飛びながら手を振っていた。

