かれこれ何時間ここにいるのだろう。
ボクは屋上から行き交う人の流れをただ見ていた。
ここから見る景色だけがボクを「普通」でいさせてくれる。
今日は天気が良い。空の青さ、流れる雲の形、心地の良い温かさ。
目を閉じれば、このまま鳥になって飛べそうな気さえする。
「君!大丈夫か?」
急に声をかけられ、我に返る。
警備員らしき男性が目の前にいた。
「大丈夫です、ちょっとめまいがして。」
ボクは愛想笑いをしながら顔を手で覆った。
「そうか。ここはフェンスが低いからね。危ないよ。」
警備員の声や仕草から安堵感が読み取れた。
きっと、ボクがここから飛び降りると思ったんだろう。
平日の昼間は喫煙者や弁当を食べるOLがいるこの場所も休日は都会の喧騒さえ忘れさせる静かな一角だ。
こんな場所に1人でいたら、そう思われても仕方がない。
でも、ボクにはこの場所しかなかった。
覆った手を外し、警備員の顔を見る。
ほら、やっぱり・・・顔がない。
ボクには人の顔が見えない。
顔だけが黒く塗りつぶされ、相手がどんな表情してるかさえ分からない。
ボクはそれが怖くて、ここに逃げてきた。
立ち去る警備員を背にボクは再び屋上から見える景色を見ていた。
ここから見える人々は景色の一部でしかない。
顔が見えないせいか、唯一ボクが「普通」でいられる場所だ。
あれから、何時間経ったのだろう。日も沈みかけ、少し冷えてきた。
ふと顔を上げると向かいのデパートのビルの屋上が目に入った。
さっきまでは、遊具で子供を遊ばせる家族連れがたくさんいて、ボクはわざと見ないようにしていた場所だ。夕方になると、さすがに人気も無くなり静かだ。
そう思っていた矢先、女性がその屋上に出てきた。
なんだよ・・・誰もいなくなったと思って見てたのに。
景色を堪能するのを邪魔され不快に感じたボクは彼女を睨みつけた。
その視線を感じたのか、彼女がこちらに振り返る。
えっ、嘘・・・。ボクは目を疑った。
人の顔を見なくて済むここからの景色よりも見たかったものが見えたから。
彼女には顔がある。
ボクは屋上から行き交う人の流れをただ見ていた。
ここから見る景色だけがボクを「普通」でいさせてくれる。
今日は天気が良い。空の青さ、流れる雲の形、心地の良い温かさ。
目を閉じれば、このまま鳥になって飛べそうな気さえする。
「君!大丈夫か?」
急に声をかけられ、我に返る。
警備員らしき男性が目の前にいた。
「大丈夫です、ちょっとめまいがして。」
ボクは愛想笑いをしながら顔を手で覆った。
「そうか。ここはフェンスが低いからね。危ないよ。」
警備員の声や仕草から安堵感が読み取れた。
きっと、ボクがここから飛び降りると思ったんだろう。
平日の昼間は喫煙者や弁当を食べるOLがいるこの場所も休日は都会の喧騒さえ忘れさせる静かな一角だ。
こんな場所に1人でいたら、そう思われても仕方がない。
でも、ボクにはこの場所しかなかった。
覆った手を外し、警備員の顔を見る。
ほら、やっぱり・・・顔がない。
ボクには人の顔が見えない。
顔だけが黒く塗りつぶされ、相手がどんな表情してるかさえ分からない。
ボクはそれが怖くて、ここに逃げてきた。
立ち去る警備員を背にボクは再び屋上から見える景色を見ていた。
ここから見える人々は景色の一部でしかない。
顔が見えないせいか、唯一ボクが「普通」でいられる場所だ。
あれから、何時間経ったのだろう。日も沈みかけ、少し冷えてきた。
ふと顔を上げると向かいのデパートのビルの屋上が目に入った。
さっきまでは、遊具で子供を遊ばせる家族連れがたくさんいて、ボクはわざと見ないようにしていた場所だ。夕方になると、さすがに人気も無くなり静かだ。
そう思っていた矢先、女性がその屋上に出てきた。
なんだよ・・・誰もいなくなったと思って見てたのに。
景色を堪能するのを邪魔され不快に感じたボクは彼女を睨みつけた。
その視線を感じたのか、彼女がこちらに振り返る。
えっ、嘘・・・。ボクは目を疑った。
人の顔を見なくて済むここからの景色よりも見たかったものが見えたから。
彼女には顔がある。
