オレが連れてきたのは2人の思い出の場所であろう屋上。

あいつがアメリカに行く前日。
珍しくオレの家に訪ねてきた。

「日向。今まで父親から逃げ回ってたけどそろそろ限界みたい。」

「親父さん倒れたんだって?薫から聞いたよ。」

「薫と話したの?」

「まぁな。オレも未練残ってねぇし、友達に戻りたい気持ちが強かったからな。」

「…そう。」

「あいつには…ぐらには言ったのか?」

「ううん。言わないで行くつもり。」

「…まじかよ!?」

「多分…言ったらきっと気を使って別れるとか言うと思う。それだけはやだ。」

「でも…。」

「和香はそーゆー奴なんだ。自分と付き合ってたらアメリカに行きにくいんじゃないかとか色々考えてそう。」

その姿を想像したのか麗はふふっと笑う。

「何年かかるんだよ…?」

「んー、まぁ3年はかかっちゃうかも。逃げ回ってたせいで、学ぶこと色々あるし。」

「そしたらあいつは3年も一人ぼっちなんだぞ!?」

「だから、日向に頼んでるんだよっっっっっっ!!!」

普段クールな麗が声を荒らげる。

「オレだって辛いよ。でももう現実を受け入れないといけない。未来のことを考えないといけない歳になったんだ。」

「…。」

「あいつが…泣いてたら慰めてあげて。落ち込んでたら抱きしめてあげて。無責任だけど日向だから頼めることなんだ。」

「ほんとにいいのかよ…。」

「もちろん譲るつもりはないよ?…けど、オレを忘れてしまう時が来ても仕方ないと思う。覚悟できてる。」

「…分かったよ。」

「頼むな…日向。」



「あいつ泣いてたんだ。あの麗が。感情を滅多に出さない麗が。」

「忘れることなんてあるわけないじゃない…っ。一言も言わないで…。」

「責めないであげて。連絡もするな。あいつの試練だから。」

「…そんなことっ。」

「麗が変われたのはぐらのおかげだ。大丈夫。絶対あいつは戻ってくる。」

そーゆーと、和香は声をあげて泣いた。