ガチャ

「あ、麗さん!」

「もう来たんだ。」

たくさんのお弁当箱を広げてニコニコしている神楽。

「めっちゃ美味しそう。」

「これ、お礼です。看病してくれた。」

目の前にある色鮮やかでバランスの良さそうなお弁当を手に取る。

「いただきます。」

「どうぞどうぞ。お口に合うか分かりませんが…。」

「ん、うまい!」

「良かったー。」

ふにゃっと緊張が解けたように笑う。
しばらく無言で食べ進めていると

「…あのっ!!」

「ん?」

「ま、前に言ってたお母さんのこと…もう少し聞いてもいいですか…?」

「…なんで。あんた関係ないでしょ。」

そう言った瞬間泣きそうになる神楽。

「別に嫌いだから言ってるわけじゃないよ。ただ疑問に思ったから。」

「少しでも力になれればって…」

「…人に裏切られたことある?一番信頼してた人に。」

「…いえ。」

「そんなんで力になりたいとか言わないでくれよ。オレのなにが分かる。興味本位で聞いてくるならもうオレの前に姿を表すな。」

別に神楽は悪くないのに、どんどん言ってしまう。

「だったら…っ!!」

いきなり大声を出すから見てみると、両目に溢れんばかりの涙を溜めてオレを睨んでくる。

「なんで、そんなに優しくするんですか!?いつまでも心を閉ざしてもお母さんは戻って来てくれるわけじゃない。あなたは過去のことを言い訳にして、人と関わらないようにしてますけど、結局裏切られるのが怖いだけじゃないですか!!!!」

バシッ

右の頬が痛い…。
神楽はそのまま屋上から出て行った。

『結局裏切られるのが怖いだけじゃないですか!!!!』

その言葉が忘れられない。

「…っハハ。いってぇ……。」

女に叩かれたことなんて生まれて1度もなかった。

「……嫌われちゃったかな。」

オレ、何度神楽を泣かせたんだろ。

それから一ヶ月。神楽はオレの前にも、屋上にも姿を表さなかった。