少女は紫陽花色の雫を拾う

その時、白衣の女が一人、俺の前で足を止めた。

「その唐揚げ、美味しそうね。一つ、頂戴。」

俺が返事もしない内に、その女性は、俺の皿へと箸を伸ばした。

あ……

俺は、その箸の先を、目で追う。

こんな無礼事を平然とやってのける女は、俺が知っている中では、一人だけだ。

「夏川……?」

俺がゆっくりと顔を上げると、彼女の口元が、悪戯に子供っぽく、ふにゃりと緩んだ。

「美味だわね。」

その表情が、記憶の中の少女とシンクロする。

彼女自慢の黒髪は、腰辺りまで伸びていた。

黒のセーラー服の代わりに、纏っていたのは、白衣だった。

しかし、やはり、大人になっても、医者になっても、彼女の子供じみた一面だけは、変わらない。

彼女は、楽しそうに笑った。

「久しぶりね、冬山。心臓外科医の夏川杏子よ。」

何故、彼女を忘れられないのか?

ムカつく奴だから。

蝉の声が、昨日より、大きく聞こえる。

あぁ、夏がやって来た。