少女は紫陽花色の雫を拾う

〝夏川杏子〟

十年前の夏、静かに、姿を眩ませた女。

残していったのは、ふざけた内容の手紙と、大福と、それから、限定物のメロンパン。

あれから、十年か……。

俺は、何で、医者なんかやってんだったかな。

俺は、都内の大学病院で、時々、ちまちまとオペをしていた。

昨晩の御手洗霞って女のオペは、消耗するものが大きかった。

新技術による新たな試みとしてのオペだったため、危ない橋を渡った節もあったが、成功したし、良しとしよう。

しかし、十年も経つと、記憶が曖昧にぼやけてくるものだ。

本当に、そんな女が、現実に、存在したのだろうか?

思えば、おかしな女だった。

自称超能力者の電波な女で、人の心を透視出来るとかふざけた事、言ってて……。

思い出そうとするほど〝夏川杏子〟の存在そのものが、怪しくなってくる。

その存在を証明しているのは、セピア色に変色した紙切れ一枚だけで。