少女は紫陽花色の雫を拾う

その時、ヒステリック女が部屋に駆け込んで来た。

「篤郎ちゃん、そこに居るのよね。篤郎ちゃん!篤郎ちゃん!」

女は、俺に気がつくと、覚束ない足取りでこちらへ近づいた。

同時に、彼は、天井の梁が、焦げ落ちるのを見た。

生への執着なんてものは、とっくの昔に、俺から、抜け落ちていた。

潔く、死を覚悟し、瞼を落とした。

その瞬間、俺の身体は、柔らかく暖かいものに包まれたのだった。

その感覚に、懐かしいものが、彼の脳裡を過ぎった。

女は、覆い被さるようにして、彼を抱きとめていた。

その背中は、梁が纏っていた炎で焼け爛れている。

女は、荒んだ呼吸で、御手洗篤郎を、愛おしそうに見つめた。

女の細い指先が、俺の頬を、優しく撫でた。

「平気よ、篤郎。平気だからね。」

———私は、きっと、もう駄目だから。

御手洗篤郎は、思わず、耳を塞いだ。

「だからね、篤郎は……笑うのよ。」

———強く、強く、生き抜きなさいね。

最期の生命の炎を灯した瞳。

その瞳は、力強い〝優しさ〟を覗かせていた。

これが、母親の瞳……。

その瞳の蝋燭は、一瞬、激しく燃え上がり、そして、消えた。

母親が死んだ晩、初めて、父親が俺と姉に手を上げた。