少女は紫陽花色の雫を拾う

それから、暫くたっただろうか。

果たして、この世界に、時間の概念というものが存在するのだろうか。

————カンッ

俺は、その乾いた音に、フッと意識を取り戻したのだった。

少女が、髪の長さからそう判断したわけであるが、こちらへ近づいてきているようであった。

深く被せられた花笠が、その表情に陰をつくっている。

その腰に括り付けられた紅い提灯光が、少女の身体をボォーッと照らし出していた。

少女は、蒲鉾型の拍子木をただ単調に打ち鳴らす。

———カンッ

「火の用心……」

———カンッ

「火の用心……」

少女は、俺の前で、ピタリと足を止めた。

花笠の陰から、一瞬、少女がニヤリと、気味の悪い笑みを覗かせた。

心臓が抉り取られるかような、奇妙な錯覚を覚えた。

何か冷たいものが、背筋を伝うのを感じる。

少女は、黒い眼で俺をしっかりと見据えて、言った。

「御手洗坊っちゃん、火事ですよ?」