少女は紫陽花色の雫を拾う

「俺は、しっかり見たよ。冬山花鈴は、榎本麻里子を見つめてた。絶望だけが立ち込める漆黒の瞳でさ……」

御手洗篤郎の酔いしれた語りを遮り、私は〝清楚な乙女心〟を振り捨て、彼に怒りに身を任せるままの暴言を浴びせた。

「さっきから人が黙って話を聞いてれば、趣味悪すぎんだよ、こんのクソッタレが!」

ビッターンと、乾いた音が屋上に響き渡る。

私の華麗な渾身平手打ちが、御手洗篤郎の頬に紅く跡を残した。

私は、冷静さを取り戻した脳を働かせ、頬を抑えながらもこちらを獣のように鋭い目で睨みつける御手洗篤郎を呆然と見つめた。

「感情のままに殴っちゃったんだけど、この状況、かなりヤバくない?」

私は、恐る恐る御手洗篤郎を指差して冬山に言う。

冬山は、頭を抱えている。

「夏川、少しは、後先考えて行動してくれないか!」

私は、ふと昨日の出来事を思い出してパンっと両手を合わせた。

そして、冬山に微笑んで言う。

「そう言えば、私、冬山にパフェ、奢ったよね?あれ、冬山に一貸しね。だから、私の身に万が一の事があったら、助けてね?」

「は?あれは、一昨日俺があげた大福とメロンパンのお返しだろ?そうお前が言ったんだろうが!」

私は、冬山の怒れる反論に耳を貸さない。

「そんなこと、記憶のどこにもありませーーん。」

冬山が私の言葉に大きなため息を吐いた。