「夏川杏子です。皆さんと仲良くしたいです。どうぞよろしくお願いします。」

自分の声がいつもより大きく響くのを感じた。

舌がうまく回らず、少しぎこちないリズムを刻む声は、緊張を含んでいた。

目の前の好奇心を秘めた八十八の瞳は、私を戸惑わせ、顔を上気させた。

中学二年生の初夏、私は、風上町に家族で引っ越してきた。

私が風上南中学校に転校してきた日は、とても暑い日だった。

緊張と上昇していく気温で汗をかいた掌を握りしめながら、私は、毎晩頭の中で練り直した短い自己紹介を言葉にした。

私の単純すぎる手一杯な自己紹介は、暖かな拍手に包まれた。

自然に笑顔が溢れ出した。