それからすぐに、俺は、タクシーを拾った。

これだから、夏川って女は……

俺は、隣で間抜けな寝顔を見せる女に、深い溜息を吐いた。

アメリカか。

10年前もそうだった。

紐無しバンジーする羽目になったり、失敗弁当(睡眠薬入り)の着色に付き合わされたり———。

俺に78回も生徒指導室に通わせておいて、その年の初夏、シュワリと消えた。

それは、まるで、炭酸水の底から湧き上がる泡のよう。

はしゃいで馬鹿騒ぎしているようで、その黒い眸には、何も映らない。

幼く笑う癖に、その大人びた眸は、何処か遠くを映している。

その姿は、まるで、蜃気楼のよう。

掴めない女。

それは、その存在すら不安にさせるほどに。

俺の手のひらは、彼女を掴むには、小さすぎるのかもしれない。

それでも———。

俺は、この女に心底惚れているのかもしれない。