今日は帰りにスーパーへ寄って・・・鍋の材料でも買おうか。

 包丁を握りながら、つい考える。最近ではスーパーでも一人用の鍋物セットなどが売られていて、材料が余ったりするのを気にせずに鍋を楽しむことが出来る。一人暮らしの小さなキッチンでもガスコンロが一つあれば十分調理が可能だから、私はよく利用していた。

 なんせお酒に合うし、野菜もたくさんとれるし、食べた気がする上に体がとても温まる。便利な食べ物なのだ。エアコンのない私の部屋には実家から持ってきた小さなストーブがあるけれど、それをつけなくても十分ってくらい、お鍋を食べるだけで部屋中暖まる。

 雪が降るような、こんな寒い夜にはやっぱりお鍋だよね。

 キムチ鍋、豆乳鍋、それともスタンダードに寄せ鍋・・・いやいや、カレー鍋なんてのも前みたぞ。

 想像してうふふふと笑いそうになってしまった。

 やるべきことをやって、今日はスーパーへいき、一人用の鍋セットを買い、銭湯にもいってゆっくりしようっと。そう決めてしまうと終業時間が楽しみになってきて、ウキウキと包丁を振るう。

 今日は平野が休みだったのも私の機嫌がいい理由なのだ。

 公園でのあの突然のキス。あれはまだ私の中で尾をひきまくっている。毎朝毎晩、何なら夢の中でも繰り返されるキスシーン。ちっとも嫌がらず、むしろ手を伸ばして顔を上にむけてしまう自分を嫌悪したところで目が覚めたりする。けれど現実世界では、あれから平野を徹底的に避けることで接触は大いに減っているのだ。