暖かい冬だったはずなのに、12月に入ったら雪が降った。

 底冷え著しい作業場で、パートの前園さんの「雪だわ~!」の声に顔を上げる。

「ついに降って来たわね~!今日降水確率高かったから、この気温だったらって思ってたのよ~!」

 前園さんが嬉しそうにそういって、窓の外を指差した。作業場にいる全員がつられて窓の外を見て、結構な勢いで降っている雪を眺める。

「・・・え~・・・勘弁してよ」

 チャリで通勤している田内さんが、嫌そうにそう呟いた。高峰リーダーがそれを聞いて、手を休めながら言う。

「田内ー、怪我したら困るから、自転車は押して帰れよ~。明日待ちに待った忘年会なのに、怪我したら欠席扱いだぞ」

 田内さんはきっとまなじりをあげる。

「明日が終わるまで、絶対に僕は怪我をしません!明日が終わったら正直寝込みたいですが。怪我でも病気でもいいです」

「・・・故意にやったら首だぞコラ」

 高峰リーダーが威嚇して、浜口さんがそれを聞いて笑った。

 午後の4時だった。

 もうすぐ仕込みも最終段階に入るというところまできていて、作業場には疲れた空気が漂っていたのに、雪のお陰で一瞬明るくなる。

 前園さんと浜口さんがお喋りを再開して、私も気を取り直して包丁を握った。

 12月になってからやっぱりきた冬将軍に、実はちょっとワクワクしていた。私は夏よりも冬が好きで、昔から雪が降るのを見るのも好き。冬生まれだからかしらね、と母親がいつでも言っていたし、自分では寒さに強い方だとも思っていた。