バウンス・ベイビー!



 言いながらムカつきだして、最後は突き放すような言い方だった。平野は気にならなかったらしい。表情は全く変わらないままで、言葉を出してくる。

「なんというか・・・シンプルすぎ。あそこまでいくのに色んなもの詰め込んで、盛り上げて盛り上げて、でも最後の頂点で描写がえらく少ないんだよ。詳細に書かないのは、一体何で?それだって大事な要素だろ?」

 ぐっと詰まってしまった。

 まさしく、あのラブシーンについて言われてるんだって判ったから。悩み、苦しんだあそこ。私的には頑張って書いたあの数ページ。それがあまりにもシンプルだって、こいつは言っているのだ。

 強く唇を噛んでいたことに気がついて口を開ける。出てきた声は、自分でもびっくりするくらいに低かった。

「・・・教えない」

 そこ、退いて。私は帰るんだから。そんな呪いを込めまくった目で睨んでみたけれど、平野はひょうひょうとしてビビっている様子など欠片もない。

 それどころかにやりと笑って、こう言った。

「俺、その理由は何となくだけど判る」

 黙って睨みつける私に一歩近づいた。

「藤はまだ、男との経験がないんだろう。だから細かく書けないんだ」


 ――――――――――バレてる。


 私は目を見開いていた、と思う。とにかく言葉が出てこなくて、怒っていいやら泣いていいやら笑っていいやら、すべき反応がちっともわからなかったのだ。

 だけど平野は外灯に照らされた私の顔をじっと見て、笑いを引っ込めた。それから目を細める。私は相変わらず何て言っていいか判らずに、ただ混乱した頭を抱えてその場に突っ立っていた。