「そんなに警戒しなくても」
平野が笑いを含んだ声で言う。公園に入ったところのベンチに座ってすぐ側にたつ外灯の光の下、やつは足をぶらぶらさせていた。駅前のくせに何故だか人気が全くない、公園に入ってすぐの場所で。
・・・何で、まだいるの?
ちらりと駅の入口を見る。まだ遠く見えるそれは、実際にはそれほど遠くないって知っていた。通勤客がほどほどに見える。まだ店も開いているし、光が溢れている。走って公園を抜ければ、2分やそこらであの駅に着ける。もう走る?走っちゃう?今、平野の相手をする元気はないし。
私が身構えながらそんなことを考えていると、判ってるよ、という風に平野が声を出した。
「帰る前に一言いわせてくれ。ほら、藤の作品について」
「うっ・・・」
つい、声が漏れてしまった。
油断していた。今日の忙しさにまみれてすっかり忘れていたのだ。こいつは・・・私の文章を読んでいるんだったー!!
思わずパッと両手を開いて顔の前に突き出した。
「えーっと・・・うーん、いや、聞きたくない、かも。そう聞きたくない。だから黙って平野」
「一読者の意見だよ。感想ノートだっけ?あれに書くと俺の登録した名前がバレるから、会った時にいおうと思ってたんだ」
「いやいや、結構です。折れやすい心なのよ、何も言わずに立ち去って下さい!」
アドバイスアドバイスアドバイス。こんな時のためにって決めていた呪文を、ちゃんと3回心の中で唱えた。だけどドキドキとイライラは収まってくれそうにない。



