「一緒の電車なのが嫌なのか?」
「まあそうね」
「・・・正直だな」
「知らなかった?私は正直なんだって。昔からそうなんです」
変わってないわよ。そういう思いで、私はツンと顎を上げる。だから、好きなんだってあんなに表しながら、あなたを追いかけていたでしょう、って。
平野は表情をかえずにゆっくりと歩き出した。私は一歩下がって平野の為に道を開ける。彼はそのまま歩いて通り過ぎたので、私も予定通りに後ろを歩いていく。
ちょっとずつ距離をあけて。
ちょっとずつ平野から離れて。
角を曲がった平野が完全に視界から消えたとき、私はようやく力を抜いた。ほーっとため息が零れる。ああ・・・疲れた。でももう大丈夫よね。これで違う電車にも乗れるはず。今日は帰ってから、ようやくラストにむけて作品を更新できるだろう。もうすぐで終われる。だけどそれでもあと20ページはかかるはずだ。書いたくせに忘れてしまっている伏線がないかどうか、確かめなきゃならないし。一刻も早くパソコンに向かいたかったけれど、とにかくこの場をやり過ごさなくては。
十分に時間をあけてから、私はまた歩きだした。もうすでに周囲はすっかり夜の中だ。外灯も全てに明りが入り、時間はまだ7時なのにまるで真夜中のようだった。
あとは駅前の大きな市民公園を抜けたら、すぐにバスのロータリーで、それから改札口に上がるエスカレーターが――――――――――――
そこで私は前の人影に気がついて、ぴたっと足を止めた。



