バウンス・ベイビー!



「藤」

 後ろから平野が歩いてくる。しかも声をかけられた。だけど私は何とか無視する。駅前の騒音で声など聞こえませんでした、論法だ!・・・まだ駅前ではないんだけど。ついでにかなり静かな住宅街なんだけど。

「藤ってば」

 言いながら追いつこうとしているらしい。頭の中ではガンガンと危険信号が発せられて、私は皆と一緒に会社を出たことを急速に後悔していた。残ってればよかった~・・・勤務時間は7時までですから~とか何とか言って。しまった~・・・。

 だけど、諦めずに平野はついてくる。私は既に競歩かってスピードで歩いていたにもかかわらず、やつはちゃんと後ろをついていきているのだ。

 ってかこの人、どこに住んでいるんだろう?一体どこまで道が一緒?私はぴたっといきなり止まって、後ろを振り向いた。

 平野はちょっと驚いた顔でその場で足を止める。

「平野はどこまで行くの?駅まで?」

 急な私の問いかけに一瞬怪訝な顔をしたけれど、その内ゆっくりと頷いた。

「藤のもう2個むこうの駅が最寄」

 ・・・っち。実はそんな近くに住んでいたのか!今まですれ違わなかった偶然が恐ろしい!私は目眩を感じて目をつむる。

 ということは、時間をおかないと下手したら電車まで一緒ってことか。

 私はお先にどうぞ、と丁寧なジェスチャーで示す。ならば私が平野の後ろをゆーっくりと歩いて、距離をあけた上で違う電車に乗ろう、そう思ったからだった。

 ふ、と平野が笑った。どうやら苦笑しているらしい。