バウンス・ベイビー!



 高校3年間を平野への片思いで過ごし、大学ではひたすらバイトとサークル活動に力をいれていた私は、平均的24歳女子よりは圧倒的に恋愛経験が少なかった。

 24歳にして、ほのかな片思いが二つと、がっつりの片思いが一つ。それだけ。両思いなど一度も経験がないし、告白されたなんて素敵な出来事もなかった。

 男の人とデートしたこともなければ、二人きりで一緒にご飯を食べたことすらない。

 それはよーく、よおおおおお~っく、判っている。

 だから自分でも「勉強」をしているわけだ。本を読んだり映画を観たり、経験豊富な大学時代の友人が飲み会で話す内容をしっかり覚えていたりして。

 だから今のところ大丈夫だ。きっと書けていると思うし、未体験だとは読者にバレていないはず。いや、まあバレても構わないんだけど(だってこればかりは本当のことで仕方がない)、それでもあからさまにおかしい文章は書きたくない。それにいっそのこと書かないという選択肢も少しキツい。キスまで持ち込んだ挙げ句、はい次の朝、ってするにはバランスが悪くなってしまう構成なのだ。

 体験がないというのは空気がわからないってことだ。そこをどうにかうまく誤魔化するのに苦労している。

 この作品ではもうちょっと、出来たらあと1ページは描写にかけたい。もしかしたらもっと酔いがいるかもしれない。私は立ち上がって、もう一缶ビールを取り出してくる。さて、二人の空気や場面がしらけないようにするには一体どうしたら――――――――。