桜の花びらが夕日に光りながら舞い落ちる。その強い風の中で、すぐにでもぼやけてしまいそうな視界の中で、平野が私に穏やかな笑顔をくれている。

 私は急いで目を拭うと、にやりと笑って言った。

「・・・そーんなこと、とっくに知ってるよん」

 頭の中で、私の作品が映し出される。

 ―――――――美春は笑って言った。『そんなこと、とっくに知ってましたよ』――――――――


 あははと、平野が声に出して笑った。頭についた花びらをぱっぱと手で落として、私に向かって歩いてくる。

「平野、あれやっぱり読んだんだ?」

 ずっと話題に出てこなかった、私のあの作品を。

「そりゃ勿論。最後の日に仕事の前、浜口さんと駅前で会って盛り上がったぜー。藤の小説の話で」

「ええっ!?あれってそれで盛り上がってたの!?」

「そう。あれ、藤が公園で泣いて帰った夜に仕上げたんだな。読んだから安心したんだ。これを書けるなら藤は大丈夫だって。だから、作業場でもいつも通りにしたんだよ。これならちゃんと仲直り出来るって判ってたから」

 へぇ!と私は驚いた。平野はそんなことを考えてたんだ!

 花びら舞い散る中、平野はニヤリと笑う。

「よく書けてると思ったよ。―――――例のシーンのリアリティ度も上がってたし」