「帰ろう。部屋や公園では話せなくて・・・どうしても。ここに連れて来て話そうって、決めてたんだ」
言いにくいことを、ずっと胸にためていたことを言ったからだろう、平野の声は明るさを取り戻していた。私は涙をタオルで拭きながら聞く。
お母さんは大丈夫なんだよね?余命宣告はなくなったんだよね?って。平野は嬉しそうに口の端を上げて何度も頷いた。
ああ、良かった。ようやく安心して、ほおっと息をつく。
2月の寒い夜の中、平野が運転する軽自動車で街へと帰る。外は寒い風が吹いていたけれど、車の中では暖かい空気が感じられた。隣の平野からも緊張は感じない。私は黙ったままでさっきまでの話を頭の中で繰り返して咀嚼する。そして、当時の平野を想って目頭を熱くしたりした。
作業場の最寄の駅前まできて、平野は一度私を下ろす。
「5時間で借りたんだ、これ返してくるから、ちょっと待っててくれないか?」
「え、一緒に行くよ、レンタカーのところまで」
ここで一人で待つよりも!私がそう言うと、平野はニッと笑う。
「藤、お腹空いただろ?もう10時前だし、手軽で悪いけど、そこのファストフードで待っててくれないか?俺の分、適当に注文しといて」
平野が指差した先にはハンバーガー屋さん。私は、ああ、と笑った。そうだ、付き合いだしてから知ったことだけど、平野ってばこういうのが好きなんだった。
だから私は了解、と指でサインを作る。平野はもう一度ニッと笑うと、ドアをしめて車を発車させた。



