1月の最後、私は実家へと戻っていた。

 父方の祖父が亡くなって、その3回忌があったからだ。

 無口な人であまり喋った記憶のない祖父だけれど、家の庭が見える場所にいつでも座って新聞を読んでいた後姿は覚えている。最後は肺に出来たガンを治療せずに長くつきあって、静かに息を引き取ったのだった。寒い冬の終わりに。

 一人暮らしの部屋に喪服などないし、と思って、私は仕事の休みを貰ったその日、朝早くから実家へ来ていた。喪服の必要ないわよ、黒っぽければそれで、と母親に言われたので実家に置きっぱなしだった箪笥から黒いタートルネックと黒いスカートを出してはく。台所を手伝って次々来る親戚の相手をしていたら、時間はあっという間に過ぎてしまった。

「お疲れさん。あとは会食して終わりだからね」

「うん。お弁当の配達頼んだの?」

 私がそう聞くと、湯のみを洗いながら母は首を振った。

 準備が大変だから、と父親が外で食べる手配をしたらしい。親戚が皆先にいってしまった後で、私は久しぶりに会った従姉妹たちや自分の兄とタクシーに乗って料理屋へ向かう。

「何か千明ちゃん綺麗になったよね~」

 一つ下の従姉妹がそう言って私を覗き込むのに、隣で兄が口を出した。堅苦しいことの苦手な兄は既にネクタイをゆるめていて、だらしない格好になっている。

「こいつ彼氏が出来たらしいんだよ。まあもう25歳だし、そろそろいないと不味いだろ」

 負け惜しみだと知っていた。だって兄には彼女はいないはずだ。だから私はふん、と口を尖らせて言ってやる。