『千明の初めての相手を悪くいいたくないけどさ、だって不明でしょ、浪人も留年もしてないのになんでまだ大学生なのよ。そこ、聞かないの、千明?』

「聞かない。だって別に私に関係ないし。就職も決まってるらしいしさ」

 電話の向こうで仁美が唸った。

『まあそうなんだけど。言えないことなわけ?女問題で面倒くさいこととかじゃなかったらいいけど』

 嫌なこというな、そう思って私はつい眉間に皺を寄せる。

「でも話そうとしてたよ?だからそういう意味では、面倒くさいことではないと思う」

 実際には今度話すっていってたんだけど。まあ言うことないか。私がそう言うと、仁美はふーん、と呟いた。

『まあいいわよ、千明がそれでいいならね。とにかく、急展開だけど、おめでとう!ついに千明も女になったのね!で、ちゃんと彼のことを好きなんでしょうね?』

 返事には、少し間があいてしまった。

 でもそれは、過去を思い出してのことだ。

 平野を好きで見ていたあの3年間。厳しい言葉を貰ってこっぱ微塵の最後。それから、また再会した秋のことも。彼に抱かれて、一緒に歩く今のことも。

「・・・好き、だよ。あの頃とは違うけど、今はちゃんと彼そのものが好きなんだろうって思う」

 懸命に避けていた。だけどやっぱり引かれてしまった。私は平野が好きだし、気になっているんだと思える。あの頃の、いつでもジタバタしたくなる恋心とは違うけれど、ちゃんと現実として受け止められる恋で。

 仁美が笑った。