バウンス・ベイビー!



 大体考えるのは、作品の続きだ。書きたいシーンなどを映像化して頭の中でこねくりまわす。といっても場面を変えるくらいのもので、こうしよう、ああしよう、と具体的に考えるわけではなく、登場人物に血が通って一人でに動き出すのを観客として見ている気分だ。

 手は勝手に動くから、頭の中で一人鑑賞会をして仕事をしている。パートさんたちは楽しくお喋りしているが、リーダーや田内さんがどうやって作業中の頭の中を展開しているのかは知らない。だけれども、いわゆる単純作業の退屈から逃げるのは大切なことだ。

 でないと辛すぎる仕事になる。

 時間は果てしなく、肉は永遠に目の前から減らないような気分になるのだ。

 肉を切り、それを順番に串にさしていき、バットに並べる。1つのバットに40本の串。それを10回ほど繰り返すのだ。それを違う種類で7つ。しかも週に5日も。休みは連続でなくシフト制だからもつのであって、これが月曜から金曜までだと皆辞めてしまうだろう。それくらい、退屈やうんざりとの闘いの仕事だった。

 なのに今日は、それがまるで出来ない。

 隣に立つ懐かしくも会いたくなかった男のせいだ。

 心がざわざわして、とっくに封印したはずの過去が襲ってきてはびっくりする。お陰で最近はなくなってきた串の先端を指と爪の間に刺してしまう拷問も、頻発していた。

 指先が冷たくて痛くて泣きそうになる。どうして私がこんな目に。くっそう!!

「藤、休憩後はズリとハート教えてやってくれ。3種類出来たらかなり助かるぞ」

 リーダーがそう言って、私は心の中でさめざめと泣く。だけど勿論嫌ですなどとは言えないから、はいと頷いた。