だがしかし!見詰める先には平野がいる自分の作業台。・・・・ああ、またあそこに戻らなきゃダメなの、私?マジで?大丈夫なの、私!?
あいつが居るのに!?会いたくない、とっくに忘れさっていたはずの男があそこにいるのに!?あうう~。
行きたくない。というか、帰りたい。今すぐおうちに帰りたい・・・。だけど高峰リーダーがじろりと見ているのが判っていた。
ダメでしょ、正社員。バイトが気に入らないからと家に帰るのは、ダメでしょやっぱり。ああ~・・・。泣きたい。やっと動悸が治まったのに。
「藤~!何してる!?何本の指の処置してんだお前は!」
「・・・はい、戻ります」
重い重いため息をついて、私は歩き出した。
去年の使えないエリート学生に比べたら、平野はまずまずといったところだった。しばらくは苦戦していたようだけれど、昼の休憩を迎えるころには一応形になってきつつあったのだ。
途中から高峰リーダーがついてじっと見ていたけれど、黙々と串さしをする平野に、うん、と頷いてみせた。
「いい感じだな。もうちょい慣れたら勝手にグラムもわかるようになる。包丁だけはほんと気を付けてくれよ」
「はい」
私は彼らの会話を隣で聞きながら、動揺する気持を何とか抑えようとしてことごとく失敗していた。いつもは一人で作業できるのだ。後ろにパートさんたちの楽しそうで明るい会話を聞きながら、自分の世界へ没頭することが出来るのだ。



