私はパッと立ち上がって、平野のコートを手に取った。
「ご飯ありがと!このご恩は忘れません!でももう帰って―――――」
ぱし、とコートを持つ私の手が掴まれた。中腰になった平野が私の手を掴んでいる。そして目を丸くする私に向かって低い声で言った。
「次は、藤が俺を振るかもよ」
「・・・は?」
「先のことは判らないだろ。大体俺達は付き合ったこともないんだし。それに今回は、さ」
私の手から平野のコートが滑り落ちた。平野は中腰のままで私を見ている。
「俺が、藤を気にしてるんだ。好きじゃない、だけど別に俺が嫌いってわけじゃないなら――――――――」
声を出す間もなく引き寄せられて、私の足がテーブルに当たって音を立てる。平野は素早く立ち上がって、柔らかく私を抱きしめる。
「付き合ってみて」
「は――――――――」
頭の中が、真っ白だった。
平野の掠れた声は真っ直ぐに入ってきたけれど、私はそれを理解することが出来ない。ただ腰や背中に回された腕の強さとか、顔に押し付けられている彼の首筋の温かさを感じていた。
・・・何て言った?
今、平野。何て。
そしてこの人、一体何して――――――――――って、抱きしめられてるじゃんっ!!抱きしめられてんだよ私は~っ!!



