「平野啓二です。藤・・・さん、とは、高校の同級生で」

 平野がそう言った。別に笑顔ではなかったけれど、穏やかと形容される静かな表情で。私がその表情を見るのは、実に5年ぶりだ。

「へえー!同級生か、それは奇遇だな~」

 そりゃ驚くよな、そう言って高峰リーダーはケラケラと笑った。パートさん達も田内さんも納得だとばかりに頷いている。

「ほんと・・・ひさし、ぶ、り・・・」

 私は何とか声を絞り出す。たら~りと冷や汗が流れるのが分かった。

 どくんどくんどくん。

 私の心臓の音は本当に大きくて、絶対皆に聞こえてるよねと思えたほどだった。

 バットを必要以上に強く握りしめていて、手が痛い。

 だけど痛いってことは、紛れもない事実なのだ。現実だ、認めたくないけれど。

 今、私の目の前に、平野がいるってことが。

「と、いうわけで、今日から半年間ヘルプに入ってもらうから。えーと平野君は大学生で、あとは卒業するだけらしいから2月までの約半年間結構入ってくれることになってるし、藤、お前がしっかり教え込んでくれよー」

 頭の中でリーダーの声がガンガン揺れていた。聞こえていたけれど、ちっとも理解出来なさそうだった。何何、私がこの人教えるって?うそでしょ、そんなのご免だわー、えー、やだー無理無理ー・・・。

「藤、判ったか?」

 高峰リーダーがそう言って不思議そうに覗き込む。私はハッとして、大きく頷いた。

「はい!」

「・・・何その勢いいい返事。逆に心配だぜ」