はあ、と何度目かの重いため息をついて帰宅準備をしていた時、滅多に連絡の入らないスマートフォンが震えているのに気がついた。

 何だ?と私はコートを着る手をとめてスマホを見る。

 そこには久しぶりの女友達の名前があった。

「あ」

 つい声を出してしまって、それから慌ててコートを着た。お疲れ様です!と叫ぶように言って、他の人の反応は見ないままで作業場を飛び出して携帯を耳にあてる。

「へーい、仁美ー!久しぶりだねー!」

 一気に上がったテンションでそういうと、電話の向こう側から明るい声が流れ出てきた。

『千明~!ご無沙汰~!』

 電話の相手は大学時代に同じサークルだった女友達だった。1年生で一般教養のクラスで出会ってから何かと相性がよくて、その内行動を共にするようになった彼女。

 私の小説に出てくる恋愛話のアレコレは彼女が過去に経験したことを話してくれたことの、カバーであることが多い。本当に、事実は小説より奇なり!を地でいく友達で、彼女がする恋バナはいつでも度肝を抜くことが多かったのだ。

 就職して最初の頃は、お互いうまくいかないことも多くて、よく飲み会をした。

 だけど仁美が付き合っている彼と同棲を始めて、こちらも仕事に慣れた去年からはあまり会うこともなかったのだ。かなり久しぶりの電話。私は弾む気持ちで歩きながら、電話を耳に押し付ける。

『突然だけどさ~、千明、明後日って暇?もし時間あったら晩ご飯いかない?』