「・・・藤、だよな?」

 目の前に立つ男性が、目をマジマジと見開いてそう言った。

 だから私もつい凝視する。

 いや、しなくても判っていた。もしかしたら、彼が声を出す前に既に。それかそれか、彼がここに入ってきた時から既に!

 「うわあ!」

 私はそう叫んで仰け反った。

 危うく手に持っていた二つの空バットを放り投げるところだった。隣に立っている高峰リーダーもついでに驚いて、うわ、と小さく口の中で叫ぶ。

「藤?何だよ一体!」

 私は全身から冷や汗が噴出すのを感じながら、あわあわと周りを見回した。

 パートさんの北浦さんと前園さんもポカーンとした顔で私を見ている。それに、田内さんも。

 ・・・うわ、滅茶苦茶目立ってるよ~!

 泣きたい気持ちで姿勢を正して、咳払いをした。

「・・・すみません、つい驚いてしまって」

「いや驚いたのはこっちだろう!」

 リーダーが隣で叫ぶ。はい、すみません、しょぼんとしてみせたけど、内心はドクドク波打つ心臓の音が聞こえているのではないかと思って緊張していた。

 目の前の男に。

「何、お前ら知り合いか?」

 リーダーがそういって、今日から入ることになった期間契約のバイトの顔を見た。私は勿論知っている。まだ紹介もしてもらってないけれど、忘れもしない、この人の名前は――――――――