今書いている作品は『それならあの雨上がりの公園で』という題名の恋愛小説。寝る時間も惜しいってほど書きたかった場面は昨日書いてしまっていて、濃密な文章が必要な箇所の再チェックをしようと思っていたのだ。

 なんせ乗りに乗って書いている時はキーボードをマシンガンのように打つので、誤字をうみやすい。しかも興奮した目は滑りまくってそれに気が付かないのだ。冷静になった翌日に、じっくり見直すべし。

 題名を決めたときから書きたかった、ヒロインの美春がヒーローの隼人に迫られるシーン。昨今流行の「壁ドン」も使ってみた。私はそんな経験などないが、確かにそれはドキドキする瞬間だろうね~って妄想を大いに膨らませて。

 隼人のセリフである『お前は俺のものだ。だから―――――』をキーボードで打ちながら、一人でニマニマと顔面を崩して怪しく笑っていたのだった。きゃーきゃー言いながら。そんでそんで次は、もっと偉そうで強烈な一言を!などと考えて、昨日の夜は大変楽しかった。

 だからそのチェックをしたかったのだ、晩ご飯前に。

 先にそれだけは、って。

 だけど、それが難しかった。

「・・・・・ちーん」

 私は仏頂面でキーボードを睨みつける。

 指が、動きません。

 そして頭も働いてませーん。

 だーめだ、今日は全然頭に入らないや。はあ、とため息をついて、缶ビールを飲み干した。

 さっきの終業間際の、あの要らない一言が私の背中についてまわってるらしい。