それから数日後、薫は結婚式場にいた。週末に行われる結婚式の為に、花を届けに来たのだ。各テーブルに置く為に、オアシスに花をさし、中央を飾ったり、新郎新婦のテーブルにも、花を添えた。

「…西園さんの選ぶ花や、活けられた花達は生き生きして見えますね」

「望月さん、ありがとうございます。何時も内の花屋を使っていただいて、腕がなります」

薫に声をかけたのは、この式場のチーフプランナー、望月悠人(もちづきゆうと)28歳。

「こんなにいい腕を持ってるのに、こんなに小さな会場ばかりでなく、大きな会場もお願いしたいのですが」

悠人の言葉に、薫は苦笑して首を振った。

「…とんでもない、大きな会場ともなると、一人では出来ません。従業員を増やす予定もないので、これで十分です」

「…それは勿体無い」

「…望月チーフ、坂本様の式についてお聞きしたい事があるんですが」

会場の入口から、見かけない顔の女性プランナーが、悠人に声をかけた。黒髪を一つに束ねおだんごにし、黒縁メガネをかけ、地味な感じの女性だった。

「…遠藤か。…全く、まだまだ一人じゃダメだな」

「…あの、彼女、見かけない顔ですね」
「…そうですか?ここで働き出して、もう2年になりますよ。まぁ、目立たないから、目に止まらなかったんじゃありませんかね?」

そう言って、苦笑した悠人は、何かあったらまた声をかけてくださいというと、遠藤のところに向かう。

…とても地味な容姿だが、あの笑顔は好きだな…誰かに似てる。と思った薫だったが、また仕事を始めた。