「姉ちゃん…」

絶対に喋るなと言われていた朱里が
涼を呼ぶと

無表情なその顔が朱里を見る

何度か瞬きをした後

右手にペンを持った


〝わたしがしねばよかった〟



「涼…俺が言ったこと
気にしているようでね…
大人げないというか、我ながら
酷いことを言ったと、反省している」



社長が困った顔で、後ろ頭をかく


「涼ちゃん、俺達の結婚式に来てくれないか? このメンバーがそばにいれば、安心だろ?」


桐川さんが明るくそう言った


涼は、桐川さんの方を向き、首を横に振った


「まだ、体力もないし
車いすでの移動は、大変だからな
桐川君、ありがとう」


社長がニコリと桐川さんに微笑む


涼は、突然
トロンと目を瞑り、スヤスヤと眠った



「疲れると、すぐこうなんだ
面会ありがとう…
すまないが…これで終わりにしてくれ
静かな暮らしをさせたい」



今日の面会が終わりなんじゃない

もう、涼と会わないでくれ


ということ?






施設を出て、桐川さん達と別れ

田島夫婦と朱里と俺が車に乗った

田島が車を発進させると


「意味わかった?」


北村が質問してきた
質問の意味がわからない


「涼 わざと朱里と桐川さんを突っぱねたでしょ?
桐川さんと朱里を離したいのよ!」


こいつは、空気が読めないクセに

こういうことは、読めるのか?

「社長さんと涼のやりとりも違和感あったよね?両利きなのに、持ち替えさせたり
持ち替えさせなかったり!
本当は、左利きなの!
ね!?朱里!!
本当の事は、左手
嘘は、右手なのよ!」

「もしかしたら、社長と涼は、打ち合わせ通りに話をしたり、書いたりしたのか?」

「姉ちゃんは、俺を怨んでるのかと…」

「涼と社長が朱里を守っているのかも?」

「おいおい… 桐川さんから?」

「そうだと思う
ってか!絶対そう!
有ちゃんも気がついてないの?
涼は、私とアイコンタクトしてたのよ!!」

「気付かなかった… なんで…
桐川さんが朱里に危害加えるわけ?」

「涼の大切な人だからよ! ん?
有ちゃんも気をつけてよ!?」

「悪ぃ ついていけてないんだけど…」


田島が、赤信号で止まってから

助手席の北村に情けない声を出す


「けんちゃんは、帰ってからね!!
とにかく、2人共!!
桐川さんにペラペラ喋ると涼が危ないからね!!
それと!!
また、会いに行くわよ!!
いい?涼は、私達が助けるの!!」

「北村… お前…何者?」

「有ちゃん!!田島!!」

「わかってるけど…呼びにくいんだよ!」

「ねぇ!なっちゃん!!
作戦たててよ!!姉ちゃんとコソッと話す方法ない?」

「あっ ケーキ
そうだよ!!ケーキだ!!
あれ、本当の事だ!
本当の事は、左手!
嘘は、右手!」

「それ、あたしが言った!!」

「だから!それつかって会話出来るだろ!」


「よし!質問と台詞考えておく!!」

「なっちゃん!!かっこいい!!」

「頼んだぞ!!」

「ナツ帰ったら教えろよ!!」




涼 救出作戦 スタートだ!!