階段を降りる途中から、蜂蜜のような甘い香りがした。

「…おはよう、朝ご飯もうすぐできるわよ。」
「あ、うん。」

これが普通なんだろうけど、何だか気恥ずかしい。
きっとそれは、母さんも感じているんだろうと思う。

「…今日から学校頑張ってね。はい、しっかり食べてちょうだい。」
「…うん。」

ハニートーストと目玉焼き、それからソーセージを2本とサラダ。
見慣れているはずなのに、食べるのは随分久しぶりだ。
母さんは私の様子を伺うように、じっと私を見ていた。

「…美味しい?」
「…うん。」

それだけ聞くと、母さんは何だかとても満足そうに微笑んだ。
母さんの笑顔を見たのはいつぶりだろうか。

「よーし、母さん、明日からも頑張って作るわね。これお弁当よ。」
「…うん。」

母さんはわざわざ玄関まで見送ってくれた。

「…母さん。」
「なぁに?」
「………朝ご飯と弁当…ありがとね。」

照れくさくてドアを思い切り開け、早足で逃げるように登校した。
そして私は、まだ覚えていない道のりをスマホを頼りに進んだ。