私がまだ月龍に所属していた頃のこと。
月龍というのは、いわゆる暴走族とかそういった不良グループの名前。
関東では知れた名前だった。

私はそこのレディース総長をしていた。
毎日のようにバイクを乗り回し、毎日のように喧嘩した。
家に帰るのも時々で、家族の団欒なんてものに参加することはなかった。
母さんはその頃、私を見る度に泣いていた。

明るすぎる茶色の髪。
特攻服。
減ることのない怪我。
そのどれもが母さんを苦しめ、悩ませていた。

私は月龍の総長、蓮と付き合っていた。
蓮はチームのみんなに慕われていた。
その代わりに敵も沢山いた。
蓮はいつだって真っ直ぐだった。
諦めが悪くて、根性があって、誰よりも男らしかった。
卑怯なことが大嫌いで、喧嘩も素手が基本だった。
三日月と龍の刺繍が入った黒い特攻服が誰よりも似合っていた。

月龍、それは、私の名前と蓮の名前を組み合わせたもの。
美月の月。
それから、瀧山の瀧からとった龍。
月龍は私と蓮の居場所だったんだ。
今は解散したのだけど。
本当にあの日までは、毎日が色づいて、楽しくて、幸せだった。

蓮の因縁ライバルである神楽の総長、有明 朔弥。
そいつらが、変な気を起こし、私を誘拐した。
私を助けに来た月龍のみんなは、すでに傷だらけで、頭に血が上った私は、手足を縛られたまま、有明に頭突きを食らわした。
その隙に蓮が突っ込み、幕は閉じた。
そう思った瞬間、背中を切り裂く強い痛みが走った。

「…美月!」
「大…丈夫、平気だよ。」
「てめぇ!」

怒りに身を任せ、蓮はナイフを持った集団に突っ込んでいった。
素手とナイフ。
勝敗は明らかだった。
血塗れになった蓮を抱き上げる。

「…美月…お前は、俺じゃない誰かとちゃんと…幸せになれよ。お前のせいじゃねぇ、俺の力不足が招いたことだからな…今日で月龍は解散だ。美月…何、泣いてんだよ?お前の泣き顔見ながら死ぬのはごめんなんだ、笑ってくれ…なぁ、笑えよ、美月…。」
「蓮…蓮返事して!」
「…美月、あとは任せた…」

そう言って蓮は息を引き取り、警察が沢山来て、私も被害者として事情聴取された。
母さんは酷く泣いていた。
私も酷く泣いたのをよく覚えている。

そして、その時の傷は今もこうして私を苦しめ続けている。