聞き間違いかと思った。

 一瞬の間が過ぎ、

「はい、おにぎりどうぞー!」

とおばさんが活気ある声でおにぎりを手渡した。

 おにぎりを受け取ると、私はおばさんに会釈をして、売店から廊下に出た。

 階段を駆け上り、動悸はいつしか息切れに変わった。


 無視してしまった。


 この高校は、自宅から2時間と遠い。中学卒業後、高校紹介の資料を渡しに母校に赴いたことがあった。その時、中3の担任に聞いた話では、当時、私と宇野以外この高校を受験した者は居なかったという。

 だから少し勘ぐった。宇野も、どこか新しい環境に行きたかったのかな、と。

 私は、変化を求めてわざわざ遠い高校を選んだ。でも、変わらなかった。

 充実感のない日々の閉塞感。
 平均レベルの成績。
 薄い人間関係。


 宇野は、どんな高校生活を過ごしてきたのだろう。同じ生活範囲でも、彼が今までどんな高校生活を過ごしてきたか、全く知らない。

 近付く距離。端正な横顔。
 切れ長の目が、私を捉える。

ーー「今日、一緒に帰っていい?」




 頭を振りかぶる。冗談か。空耳か。

 どちらにせよ。


「やめて」


 学校では素通りだったのに。ビビるじゃんか。これっきりにしてよ。


 喉に、胸に違和感が残る。なにがつっかえているのかは、分からなかった。