宇野は私を見ずに、立ち去った。

 どうすることなんて出来なかった。話なんか不毛だった。無力感が残った。

 謝られたって、迷惑でしかない。その裏の思惑が見えてしまうからだろう。



ーー『誰に向かって口聞いてるんだよ』


 本当にその通りだ。

 私は謝る側なのに、その立場を理解しなかった。自己保身の為に、自分の悔い改めの為に、宇野を利用した。

 突きつけられた差に、屈辱感はいや増した。

 
 宇野に対する後ろめたさと苦手意識は、募るばかりだった。



"また今度"、は2度となかった。


 団地では彼に挨拶した。無視されるだろうと思ったけれど、意外にも宇野は挨拶を返した。あの日のことはなかったかのように、宇野も私も振る舞った。

 

 その後3年生になる前の春、蓮は学校からいなくなった。転校した。

 理由はよく分からない。団地情報では、蓮のお父さんは自主退職したと聞いた。家族みんなで隣街に引っ越したという。家族ぐるみで仲が良かったのに、団地を出て行った途端、年賀状のやり取りすら無くなった。

 
 蓮を最後に見たのは職員室だった。項垂れて先生の話を聞いていた。当時の友人によれば蓮は転校前、不良グループからはぶられていたらしい。

 同じ頃、宇野泰斗への虐めがなくなったと風の噂で聞いた。

 蓮は結局、賭けに負けたらしかった。逃げるように、この街から出て行った。多分、蓮にとっては最悪の賭けだったんだろう。

 でも。私なんかは羨んでしまう。


「よかったね。この街から出られて」


 団地から出ていける。煩わしい人間関係や感情を、もう味わないで済む。