・
次の日の放課後、3階の図書室から校庭を眺めていた。
私の所属するバスケ部は休みだったが、宇野の所属するサッカー部は、その日も練習があった。
チームに別れてミニ試合をしていた。
宇野は時々ボールを受けると、相手をフェイントで抜き、縦のパスを上手く通した。素人目に彼は上手く見えた。
中盤、宇野の身体に当たって、ボールがコート外に出てしまった。味方が声を荒げる。何を言っているかは聞こえなかった。
それ以降、宇野はボールに触らなくなった。ポールを追いかけてはいる。だが彼がアピールしても、誰もパスを出さない。
校舎に背を向けてグラウンド端のベンチに座る。試合を眺める宇野の周りには誰もいない。
宇野は、部活内でも疎まれているのだろうか。
グラウンドから目を離す。余計な詮索はしない。今はただ、練習が終わるのを待っているだけだ。
許されなくてもいい。それでも。
”気に入らない”と言う理由だけで、相手に理不尽な悪意をぶつけ、平気でいる。そんなまで落ちぶれたくないから。
・
宇野泰斗はその日の帰り道、友達も連れずに1人だった。
彼の後を、ゆっくりついていく。このまま彼に話し掛けないでいたら、ストーカーみたいだな、と思いつつもそのタイミングを掴めなかった。声を掛けるには、結構な距離があった。
後ろに私がいるなんて、宇野は考えもしてないだろうしな。玄関先で突然背後から話しかけるのは、結構不気味かな。
そう問答を繰り返している内に、先を行く彼を見失いそうになった。
急いで走って曲がり角を曲がると、思いがけず、宇野は直ぐ目の前を歩いていた。
(…っ、近い)
私の走る足音に、宇野が反射的に振り向いた。振り返った宇野に驚いて立ち竦む。
「………」
私を一瞥しただけで、何もなかったみたいに前を向く。ズボンのポケットに手を突っ込んで、帰り道を歩いていく。
無言のまま私も、距離を気にしながら彼の後ろを歩く。今のタイミング、実は良かったんじゃないかと思いながら。
一度決めたんだ。逃げるな。謝るんだ。
利己的な奴だって思われてもいい。それでも、この抱える重荷が幾分か取れるのなら。
薄暗い帰り道、先の方に、私達の帰る団地が見えてきた。
