「別に言い寄られた訳じゃない…と思う」
「なぁーんだ。じゃあ普段男子と話さない蓬が男子と喋ってたからって話が大きくなった訳ね」
面白くなさそうに、依ちゃんは教室を出ようとして背を向けた。
何だろう、この罪悪感。
いや、でも言い寄られたって違うよね‼︎
一目惚れしたって言われただけで。
そんなわたしの言い訳を聞いていたのかというくらいタイミング良く依ちゃんは振り向いた。
「でも、いつも男子には遠目でしか見られない蓬に話しかけてくるってことは蓬狙いかもね」
うっ……。
依ちゃんは小悪魔か天使か、人間とは別世界の住人のように綺麗に微笑んで教室から出た。
「何の話してたんですか?」
「何でもないっ‼︎」
こういうのに耐性のないわたしはすぐ熱くなってしまう。
それを見透かしたように依ちゃんはいつも達観したようなクールな目をわたしに向けるから尚更恥ずかしい。
何も知らない仁くんはというと不思議そうな顔でわたしを見つめていた。

