「じゃー、オレが教えてやろっか?
そうなりゃこっちも心おきなく英語のノート借りれるし?」



「そういうことね、はいはい」



二人で顔を見合わせ、どちらともなく笑いだす。

こんな時間に学校以外の場所で、フツーに話していることが不思議で。

ちょっとワクワクするような、どこかくすぐったいような気持ち。



「とにかく、それちゃんと返してよ!」


「わかってるよ。終わったらすぐ返すって。」


「後つかえてるんだからね」



って念押ししながら、


『あぁ、そうだ。返しに来てくれたら、また会えるんだ。』


一瞬、そんなことを考えた自分に気づいて、恥ずかしくなる。

1学期の間は、毎日学校で顔を合わせていたけど、

夏休みが始まってからは、昨日まで一度も会ってなくて。

だけどそんなのは当たり前のことだし、他のクラスメートだって同じなのに。



「気をつけてね」


少し心が軽くなったおかげかな、

素直にそんな言葉が出てきた。

街灯に照らされた銀色の自転車へと、その背中は無言のまま歩き出す。

と、ふいに立ち止まり、何か言いたそうにじっと見てくる。


どうしたんだろ?


首を傾げる私から視線を逸らした横顔が、ためらっているのがわかった。


「さっきさぁ、…もしかして、泣いてた?」


「え」