「はい、どうぞ。」

「サンキュ。」


人の苦労も知らないで、

パラパラとノートをめくってる。


「やっぱお前んち、ここだよな?」

「え?そうだよ」


何言ってるのいまさら。

だから今ここにいるんでしょ?

でもな~んか、トゲある感じ?

不思議に思って、もう一度早川を見ると、

その視線は「SHINTANI」とローマ字表記された表札を捉えていて。


「あぁ、あの、私、修ちゃんに家庭教師してもらってるんだ。

一応現役大学生だし、私、理系全然ダメだから」


何を焦ってるんだか、自分の言葉が変に言い訳っぽく聞こえるのはなぜだろう?


「理系って数学?物理?それとも…」

「全般」

「そうなんだ?」

「そんなに驚かなくたっていいじゃない」

「いや、バカにしてるんじゃなくて、意外だったから。

そんなに苦手な教科あるように見えなかったし。

もしかしてオレの方が点数良かったりして?」

「さぁ?どーだろ」


小さく舌を出して、その質問の答えは誤魔化した。

負けてるの知ってるから、言いたくないんだよね。

「ちぇー、その方がカワイくていいのに」

「は?」

「だーから、

ちょっとくらいダメなトコある方が、

女の子はカワイイって言ってんの」

「それって、守ってあげたくなるってヤツ?」

「そうそう。わかってんじゃん」

「言われたことないけどね」


あぁ、どうして私って、

こんなカワイくない返事しかできないんだろ。

だいたい何で恥ずかしげもなく、

カワイイとか言えちゃうのかな、この人は。

私の方が赤面してしまうよ。


自意識過剰かもしれないけど、一緒に海に行ってから、

早川の事、意識せずにはいられなかった。

ついさっきまで、頭の中は修ちゃんのことでいっぱいだったのに、

自分でも呆れてしまう。

いい加減?なのかな、アタシって…。