「ど、どしたの?」


滲んだ涙を慌てて手の甲で拭う。

誰にも会いたくなかったのに、

なんでよりによって?

「さっき、電話したんだけど」

「あ!…ごめん、出れなくて」

「あー、いいって、別に。
…それよりさぁ、夏休みの宿題、
今のうちに貸してもらえないかと思ってさ。
ギリギリだと他にも当てにしてるヤツいんだろうし。」

「う、うん。まぁ、いいけど…」


なるほど、そいうこと。

帰りの車でやたら人の宿題の進み具合、

聞いてくると思ったら、そういうことか。

それにしても…、昨日会ったばかりなのに、

あれから随分時間が経った気がする。

早川に会うの、すっごく久しぶりみたいに感じる。


「すぐ返してよ?次、予約入ってるから」

「了解」

「…にしても、そんなに英語ダメなの?」

「ダメなんじゃない。キライなんだって!」


それを苦手って言うんでしょー。

くだらない見栄張るとこが、ちょっとかわいい。

本人はいたって真面目な顔で言ってるけど。


「じゃ、よろしく」


って今すぐ持って来いってこと?

意外と自分勝手じゃないの、コイツ。


「いや、オレ、部活終わって、

飯食ってから来たから遅くなって…。

ただでさえ遅い時間なのに、外で長話とか、マズイだろ?

親とかさ、うるさくない?」


ちょっとムッとしたのがわかったのか、

慌てて言い訳する姿に笑ってしまった。

そういえばシャワー浴びたばっかりなのかな、

まだ乾ききらない前髪に少し癖が出ていて。

昨日二人で海にいた時間に、

一瞬引き戻されて、ドキッとした。


「じゃあ、ちょっと待っててくれる?」

「わりぃ」


キィと音を立てる我が家の門をそっと開け、玄関からそのまま二階へと、

誰にも会わないように忍び足で階段を上がる。

会っちゃったら会っちゃったで、それは別にいいんだけど、

できることなら会わずにすませたいっていうか…。