「ほんとに、おまえはさぁ…、

一体何考えてんだよ?」

「何って、その…」

「あ!違うからな!

キスじゃないから!

ファーストキスが血の味とか、

そんなのダメに決まってるだろ!?」


まだ何も言ってないのに、

ものすごい勢いで否定された。


あれ?さっきのって、

私のファーストキスだったんだ。


それが、こんな、お粗末な…。

今さらだけど、自分の恋愛スキルのなさが、

情けなくて笑えた。

鼻と鼻がぶつかっちゃって…とか、

歯が当たって…とかは聞いたことあるけど、

血が出ちゃうって、

それはもう『キス』じゃなくて、

『ケガ』だよね。


「何か冷やすモノとって来る」


修ちゃんが下へ降りて行く。

そんなに心配しなくても…。

指先でそっと触れると、

血はもう乾いていた。


「…わかった!

そこで待ってて。すぐ行くから」


電話しながら勢いよく階段を駆がってきた

修ちゃんは、私に保冷剤を投げてよこした。


レイナさん?どうしたんだろ?

何か焦ってるみたい…。


「出かけるの?」

「あぁ、悪い」

「私、戸締まりしとくから、行きなよ」

「…んじゃ頼むわ。鍵、いつもんとこ」

「了解」


私の返事を最後まで聞かずに、

部屋から飛び出した修ちゃんは、

ヘルメットを抱えると、

ものすごい勢いで階段を駆け下りていった。

玄関のドアを乱暴に閉める音に、

バイクのエンジン音が続いて聞こえる。

ただそれだけのことなのに、

一分一秒でも速く、

彼女の元へ辿り着きたい気持ちが伝わってくる。