置き去りになっていた私の自転車は、

ぶっ倒れて涼んでいた公園の隅に、

停めてあった。


「よかったぁ、無事で」


「送るよ。夏は変なの多いっていうし」


早川が短く言って、

周りの景色へと視線をそらす。

ん?照れてる?

こっちまで恥ずかしくなるからやめてよね。


「ありがと」


聞こえるか聞こえないかの声で呟いて、

逃げるように坂を下る。

赤くなった頬にあたる風が生あたたかくて、

火照りがちっとも冷めていかないのがもどかしい。

顔を見られたくなくて、ついついペースが上がって、

お互い何も話さないまま、

家の前までたどり着いてしまった。


「じゃあ」


「うん、気をつけてね」


「おう」


気まずいわけじゃないけど、

どうしたらいいかわからず、

そんな短い会話だけで別れてしまった。

女の子扱いされるのに慣れていないから、

こういうの、貴重な経験。

いろんなことがありすぎて、正直今日の私の心臓は、

かなりお疲れだと思う。

心拍数上がったり下がったりしすぎたもんね。

それでも今日一日を振り返って、

楽しかったと言えるのは、早川のおかげかな?

ちょっと強引だったけど、

ずいぶん救われた気もするから、よしとしよう。