「ありがとうございました」


駅に到着して、深々とおじぎする早川を横目に見ながら、


「あの、…気をつけて」としか言えない私。


あんな張り詰めた空気の車内に残った二人が、

気になって、お礼どころじゃなくて。

修ちゃんから質問攻めにあう覚悟してたけど、

そんなこと気にしていた自分が、馬鹿みたい。

実際、修ちゃんは私に関心ないんだってわかった。

寝たふりする必要なんてなかった。

しつこく責められずにすんだのは、

もちろんラッキーだったけど、

そんなことはどうでもいいことだって、

そう言われているようで、複雑だった。

修ちゃんには、

もっと他に気になることがあるんだって、

わかるから余計に複雑…。

私たちはレイナさんとだけ挨拶をかわして、

二人と別れた。


「修一さん、なぁんか機嫌悪かったよなぁ」


私を自転車の後ろに乗せて、

同意を求める早川。


「そうだね」


頷きながら私は、

その原因がなんとなくだけどわかる気がして、

修ちゃんがかわいそうに思えた。

レイナさんはきっと、

忙しくて会えなくて別れてしまった彼を、

部活で忙しい早川に重ねてしまったんだと思う。

だからあんなふうに、気持ちが昂ぶってしまったんだ。

それはたぶん仕方のないことで、

誰が悪いわけでもないけど。


「うまくいってないのかな?あの二人」


ちょっとズレた質問をしてくる早川に、

二人の事情を話すかどうか一瞬迷って、


「さぁ、…そもそも付き合ってるのかな?」


気づいたら自分の中にある疑問を、

そのまま口に出してしまっていた。


「え?違うのか?」


「知らないよ!」


慌てて否定したら、


「なんでお前まで不機嫌なわけ?」


わけがわからないと、困惑気味な早川。

ごめんね、これじゃ、八つ当たりだね。

別に私には関係ないことだって、

どうにもできないことだってわかってるけど、

胸の中に、切ないような、

ほろ苦いような気持ちがいっぱいに広がって、苦しい。

恋って楽しいことばかりじゃないことくらい、

私だって知ってる。

知ってるけど…。