少し先を歩く早川が急に振り返って、


「…寝てていーからな」 


何か企んでいるような、

嬉しそうな顔で親指を立てている。

それってどういう意味?

もしかして、気づいてるのかな?

私がイヤイヤ車に乗ろうとしてることに。

頑張ってフツーにしているつもりでも、

顔に出ちゃってるのかも。

そう思うと、

修ちゃんの顔見て、フツーにしてる自信なくなってきて、

つい足が止まる。


「望月?」


不思議そうな顔した早川が、

白い歯を見せてニッと笑った。


「ちゃんと説明すれば大丈夫だって。

 誤解なんだから」

「?」


また意味不明な発言。

私が歩きだすまで、立ち止まって待っていてくれるのは、有難いけど。

その優しさの理由がわからないから、

なんかちょっとコワイ…。

その場で考え込みそうになったけど、

そんな時間を与えてはもらえず。

運転席の窓が開いたと思ったら、

私たちは修ちゃんに大声で呼ばれた。


「かりんーっ!置いてくぞ!」


何言ってるの?誘ったのそっちじゃない!

いっそ置いて行ってくれたらどんなにいいか。

仕方がないから急ぐフリをしながら、

私はまだそんなことを思っていた。